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2017年12月11日月曜日

Stefan Zweig: Joseph Fouché

2017年10月21日読了
著者:Stefan Zweig
評価:★★★★★
刊行:1929年
Kindle版


1942年に亡命先のブラジルで自死したオーストリアの作家Stefan Zweigによるナポレオン体制下の警察大臣Joseph Fouchéの伝記。Zweigはウィーンのユダヤ系富豪の家に生まれたオーストリア人だが、その関心や教養、言語能力からしてヨーロッパ人あるいはコスモポリタンと呼ばれるにふさわしい。

Joseph Fouchéは日本ではそれほど馴染みのある名前ではないが、フランスではそれなりに名の知れた歴史的人物で、バルザックの小説などにも登場する。僧職の身でフランス革命に身を投じ、無神論の過激派としてリヨンの虐殺などに荷担しながらも、テルミドールの反動でロベスピエールを裏切って生き残り、その後の統領政府とナポレオン帝政のもとで警察大臣を務めた。かつてルイ16世の処刑に賛成票を投じたにもかかわらず、ナポレオン失脚後の王政復古に力を貸し、ルイ18世のもとでも警察大臣になる(ただしこれは短期間に終わる)。

カトリックから無神論へ転向し、無神論からカトリックへ再転向、革命期には貴族制度を全否定しながら、のちには自ら爵位を受けるに至る。私有財産を攻撃したのは過去のこと、後年には莫大な富を蓄える。右から左、左から右へと揺れ動く激動の時代を乗り切った歴史上希有の人物といえよう。原理原則は無く、節操もない。カメレオン的変身がこうした処世を可能にした。ZweigはFouché流の裏切りと陰謀、変節と虚言こそが政治家の本質であると見ている。この伝記の副題が"Bildnis eines politischen Menschen"(ある政治的人間の肖像)となっている所以である。

Fouchéは警察大臣としてフランス全土に諜報の網の目を張り巡らせ、政敵はもちろん、網の目にひっかかるあらゆる人物のあらゆる秘密やスキャンダルを収集する。ナポレオンの妻のジョゼフィーヌもFouchéへの通報者だった。情報の重要性を理解し、情報を武器とするなど、まことに現代的ではある。

おもしろかった。良心の呵責や羞恥とは無縁にくねくねと時代を泳いでいくFouchéの軌跡そのものがおもしろいこともあるが、それだけではない。Zweigの叙述のうまさ、洞察や分析の鋭さ、皮肉や諧謔の巧みさこそがこの伝記の真髄といえる。つまり「おもしろくてためになる」のである。

Zweigの自伝である"Die Welt von Gestern"(昨日の世界)を読んだのは10年以上前になる。Fouchéの伝記は私にとっては2冊目のZweig作品である。私のタブレットPCには200円ほどでダウンロードしたZweigの全作品が保存されている。次はマリー・アントワネットの伝記だ。もちろんいつの日にかには彼の小説にも手をのばしたい。

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