著者:Percival Everett
刊行:2024年
評価:★★★★★
Kindle版(2062円)
2025年12月18日読了
2024年度の全米図書賞やピュリツァー賞を受賞した米国の黒人作家Percival Everettの話題作。マーク・トウェインの「ハックルベリー・フィンの冒険」をベースとし、これをハックと同行する逃亡奴隷のJimことJamesの視点から再構成した小説だ。
私は子供向けに編集された「トム・ソーヤーの冒険」を読んだ覚えはあるが、「ハックルベリー・フィンの冒険」(以下「冒険」と略する)は読んでいない(はずだ)。「James」の登場人物は「ハックルベリー・フィンの冒険」のそれと重なるから、「冒険」を知っていたほうがわかりやすいかもしれないが、読んでいなくても特に理解に支障が出るわけではない。
「冒険」の中のJimとは異なり、Jamesは仲間内では(つまり黒人奴隷同士では)標準の英語を話す。Jamesは読み書きができるうえ、司祭の図書館でさまざまな本を盗み読みしたことから、教養の程度も並大抵ではない(彼の夢の中にはヴォルテールやジョン・ロックが現れる)。
ただし、白人に対するときには間違いだらけの「奴隷の言葉」をしゃべる。たとえば、主人であるMss. Watsonから「眠っていたのか(Was you 'sleep?」と尋ねられたときには、
No, ma’am. I is a might tired, but I ain’t been ’sleep.”(疲れてはいたけど、眠ってはいません)
と、無茶苦茶な文法で答える。
Jamesはこうした「奴隷の言葉」を自分の娘のLizzieにも教える。このレッスンの場面が秀逸だ。
“But what are you going to say when she asks you about it?” I asked. Lizzie cleared her throat. “Miss Watson, dat sum conebread lak I neva before et.”
” “Try ‘dat be,’” I said. “That would be the correct incorrect grammar.”
“Dat be sum of conebread lak neva I et,” she said. “Very good,” I said.
つまり、ただ間違えればいいというわけではない。(奴隷としての)「正しい間違え方(correct incorrect grammar)」があるのだ。ここらへんは邦訳が不可能に近い。
白人を相手としたときの「奴隷語」を別とすれば、非常に読みやすい小説だ。ストーリーも、どこまでが「冒険」と一致しているのかはわからないが、起伏に富んでおり、おもしろい。
詳細に立ち入ることは控えるが、興味深いのは、当時の奴隷が置かれていた状況がこの小説の展開を通じても浮き彫りになっていることだ。たとえば、黒人はひとりで旅をすることはできない。逃亡奴隷とみなされるからだ。少年のハックとの同行もリスキーだ。したがって、彼らの移動は主として夜間に限られ、昼間は無人島に籠る生活にならざるをえない。ここらへんの事情は「冒険」でも同じだろう。
Percival Everettにはこのほかにも、「Erasure」や「The Trees」などのおもしろそうな作品が数多くある。読み続けていきたい作家のひとりだ。





















































