著者:Victor Hugo
刊行:1862年
評価:★★★★☆
Kindle版(110円)
1年以上かけてようやく読み終えた。「読み終えた」というのは必ずしも正確ではない。ざっと目を通したという部分も少なからずあるからだ。ユーゴーの小説のご多分に漏れず、この作品にも本筋には直接関係しない脱線が多い。たとえば、ワーテルローの戦いの推移、フランスの隠語や俗語についての考察、パリの下水道の歴史など。しかもそれぞれ長い。ワーテルローの戦いの章の最後の数ページだけは話の展開に大きく関係してくるが、その他の脱線は字義通り脱線であり、読んでも読まなくて本書の理解には影響しない。
こうした脱線にも一応は目を通した。ただし、大部分は活字を目で追っていただけで、頭にはほとんど入らなかった。なにぶんにも古い言葉や専門用語が頻出し、いちいち調べて理解しようとすると、たいへんな手間だ。
これに反し、本筋のストーリーは非常にわかりやすい文章で書かれている。波乱に富んだ物語なので、おもしろくすいすいと読める。
波乱に富んではいるが、偶然と偶然が重なる展開で、劇画風と言えなくもない。
しかし、ユーゴーの小説の魅力は破天荒なストーリーだけでなく、登場人物の造形の見事さにもある。「93年」や「ノートルダム寺院」と同様、感情の振幅が激しい人物たちが極端から極端へと駆け抜ける。
たとえば、異常な情熱でジャン・バルジャンを追うジャベール(Javert)警部。ジャベールは「悪漢」ではない。彼独自の「法律」という論理に操られているだけだ。この論理が破綻しそうになるとき、彼自身も破綻する。
最初から最後まで小悪党として暗躍するテナルディエ(Thénardier)も重要な役を担っている。この貧弱な小男は、もともとは宿屋兼食堂の主だった。ケチで小狡くはあるが、客に愛想よく、曲がりなりの学もある。大柄で乱暴なテナルディエの妻も心に残る人物で、その図体にもかかわらず夫に盲目的に従う。この二人の悪党の間に生まれた子供たちも、それぞれの個性で際立つ。なかでも、歌を歌いながら暴動に加わる陽気なガヴローシュ (Gavroche)少年は、パリのストリートチルドレンの代名詞となっているくらいだ。
もちろん美男と美女のマリウスとコゼットも欠かせないが、正直なところ、彼らに対しては悪漢や性格破綻者などのどぎつい人物に対するような興味を覚えなかった。
レ・ミゼラブルにはじめてふれたのは小学生のころ。岩波少年文庫に収められている豊島与志雄訳を読んだ(「レ・ミゼラブル」ではなく、「ジャン・バルジャン物語」というタイトルだったかもしれない)。そのあとで映画も見た。したがって、おぼろげながらストーリーは知っているつもりだった。しかし、今回曲がりなりにもフランス語で全編を読み、少年のころの記憶や印象の訂正を余儀なくされた。私の記憶では、マリウスとコゼットが結ばれたところで話しは終わっていた。また、ジャン・バルジャンとジャベールの追跡劇が話の軸となっており、テナルディエ一家についてはほとんど覚えていなかった。
岩波少年文庫のほうは豊島与志雄の訳だから、大幅な省略はあったとしても、肝心なポイントは外していないはずだ。要するに私が覚えていなかっただけだろう。記憶といい印象といい、かくまでに頼りない。
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