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2024年9月16日月曜日

Guy de Maupassant: Une Vie(女の一生)


 著者:Guy de Maupassant

刊行:1883年

評価:★★★★★

Kindle版(無料)

2024年7月24日読了

モーパッサンは高校時代にいくつかの短編を読んだことがある。もちろん翻訳でだ。内容はほとんど覚えていないが、わかりやすくおもしろかった。その後、フランス文学に相当入れ込んだにもかかわらず、モーパッサンには手を出していなかった。なぜだかはよくわからない。だが、「わかりやすくおもしろい」から「軽い」という印象が生まれ、ことさら重厚で難解なものをありがたがる若者にありがちな虚栄心が働いていたのかもしれない。

しかし、電子本の普及のおかげで、モーパッサンの原書をほとんどすべてを無料で読める時代になった。約60年ぶりに彼の作品ひ手を出したのはこうした事情からだ。Boule de suif(脂肪の塊)、La folle(狂女)、La parure(首飾り)などに続き、モーパッサンの作品のなかでももっとも世に知られているUne Vie(女の一生)へと読み進めた。

邦題は「女の一生」だが、原題はUne Vie、すなわち「ある生涯」で、「女」は入っていない。

物語は17歳の主人公Jeanneが修道院から両親のもとへ戻ったときから始まり、晩年を迎えるまで続く。主人公は没落したとはいえ貴族の身分であり、労働の経験もなければ社会も知らない。ほぼ同時代のエミール・ゾラの小説の主人公たちが貧困のなかであえいでいるのとは対照的だ。

ストーリー・テラーのモーパッサンだけあり、世間知らずのJeanneの人生も山あり谷あり(谷あり、さらにもっと深い谷ありと言ったほうが正確か)で、夫の度重なる不倫をはじめとし、それなりに波乱に富んでいる。が、彼女は最初から最後まで他人依存だ。父親に頼り、父亡き後は一人息子のPaulを生きがいとする。

Paulはフランスを離れ、母親からも離れ、お金が必要なときだけ手紙を送ってくる。土地も財産も売ってしまった晩年の彼女にはそれでも因縁あさからぬ乳姉妹であり下女でもあるRosalieが付き添っている。

それほど苦労せずおもしろく読めた。ゾラの「居酒屋」やバルザックの「ゴリオ爺さん」を読むのに四苦八苦したのとは大違いだ。この違いはどこにあるのだろうか。ひとつは描写の濃密度の違いだ。ゾラやバルザックの緻密さに比べ、モーパッサンは比較的あっさりしている。このためか、ゾラやバルザックのほうが、ずっしりとした重みを感じる。

だからとってモーパッサンのほうが劣っているわけではない。文学作品のおもしろさは、ストーリーに加え、どれだけ人間が描かれ、社会が反映されているかにある。他者に依存するしかない没落貴族の娘もその時代の反映であり、その悲しさは十分に伝わる。偏狭な新任司祭に敢然と立ち向かう父親、没落した女主人を支えるRosalieなど、登場人物も十分に魅力的で印象に残る。

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