7月17日
朝食の席で私の前に座っていたのは米国人の青年。カリフォルニア州出身で、コロナ前に米国を出て、4年間ほど世界各地を旅しているという。昨日フランス人女性が「米国人男性と一緒に歩いて隣町まで行く」と話していたが、この青年がまさにその相手だった。やがて当のフランス人女性も姿を見せた。昨日はフランス語と日本語で話したものだが、第三者がいるこの場では当然言葉は英語になる。
中東風の若いカップルがやってくる。女性はヘッド・スカーフを着用している。どこの国籍だろうか。気になる。シリア、イラン、あるいは...。トルコ人だった。彼らも長期旅行者だ。モンゴルに来る前に日本に4か月ほど滞在したとのこと。日本での体験は総じてポジティブだったようだ。ハラル料理の話から、彼らがよく行ったらしい「サイゼリア」へと話が飛ぶ。
私の斜め前に座っていたのは中年の中国人女性。若い中国人男性と一緒だった。母と息子かとも思ったが、あとから聞くと、ウランバートルのゲストハウスで知り合って一緒に旅をしているだけとのこと。これもあとから聞いたことだが、中国人女性は46歳だった。
彼女はハルピンの出身(以下、「ハルピンおばさん」と呼ぶことにする)。日本はすでに2回訪れたが、あと2回は行ってみたいと言う。「ペイハイド、トンジン、ジンド、ダーバン、そしてXXXなどへ行った」とも。北海道、東京、京都、大阪はわかったが、最後のXXXはわからなかった。スマホの画面を見せてくれる。XXXは沖縄のことだった。
「日本では北海道をペイハイド、大阪をダーバンと言っても通じない。次に日本へ来るときは日本の地名を日本語で(つまりは英語で)覚えてから来るように」と忠告しておいた。
昨日はエルデニ・ゾーを見るだけで終わってしまった。今日はハラホリンのメイン・ストリートを見てみたい。ハラホリンの今日の天気予報は雨ということだが、午前中は大丈夫みたいだ。ゲストハウスから30分以上かけ、ぶらぶらと歩きながら、それらしきところにたどりつく。といっても、ちょっと大きめのホテルと3、4軒のカフェやレストランがあるだけで、メイン・ストリートと呼ぶのはおおげさだ。
通りのはずれのほうにあるらしい川を目指して歩く。20分ほど歩くが見えてこない。さすがに疲れ、引き返す。川を見ることはかなわなかったが、通りすがりに見える家並みは興味深かった。ゲルでもなく、ウランバートルにあるような高層アパートでもなく、おそらくこれが平均的なモンゴル人の住み家なのだろう。
沿道の家並み
午後1時を過ぎたところで、「メイン・ストリート」にあるちょっと大きめのレストランに入る。ウェイトレスがなかなか注文をとりに来ない。こちらから声をかけると、スマホの画面を見せてくる。画面には韓国語が表示されている。私を韓国人だと勘違いし、グーグル翻訳を使ったのだろう。日本人であることを英語で伝える。英語への翻訳に切り替えて表示されたのは「Closed」という情報。まだ客はちらほら残っているようだが、新しい注文は停止していた。
やむなくさらに20分ほど歩いて、昨日訪れたエルデニ・ゾー(寺院)の周辺にある食堂を目指した。昨日とは別の食堂に入る。客の食べている料理を指さし、これを3個くれと伝える。ここでもウェイトレスがスマホの画面を私に差し出す。表示されているのはまたまた韓国語だ。日本人であることを伝え、日本語の翻訳を表示してもらう。注文したのは「ホーショール」というモンゴル伝統のパイのような料理だが、画面には「パンケーキ3個でいいのか」という日本語が表示されていた(ホーショールが「パンケーキ」と日本語訳されていた)。ホーショール3つとミルク・ティー2杯で8000MNT(300円ほど)だった。
ホーショール
今日は「ナダーム」の最終日。エルデニ・ゾー前では子供たちが輪になって踊っていた。
子供たちの踊り
そうこうしているうちに、空模様があやしくなってきた。エルデニ・ゾーの近くにある博物館に入るのはあきらめ、スーパーに立ち寄ってから宿に帰ることにした。
スーパーで買い物を終え、外へ出たときにちょうど雨が降りだした。かなり激しい雨脚だ。急いでカバンから傘を取り出し、宿へ向かう。スーパーから宿までは7、8分。風も強く、傘をまともにさすことができない。ゲストハウスに着いたときにはかなり濡れてしまった。皮肉なことに、着いてからしばらくすると雨はやんだ。
共有スペースに行くと、若い東洋人の女性がタブレットで何かを鑑賞している。韓国語だ。韓国語で声をかける。いつものとおり、韓国語で話しかけてもあとが続かない。英語に切り替えて話を続ける。
彼女はソウル出身。モンゴルははじめてで、モンゴルのあとは列車で北京と上海へ向かう予定だ。三回の訪日経験あり。いずれも東京。どうして東京なのかと尋ねると、劇団四季のテストを受けるためだったとのこと。合格には至らなかったらしい。つまり彼女は女優もしくはその卵なのだ。「女優と名のつく人と話すのは生まれてはじめてだ」と私の驚きを伝えておく。
やがて朝食時に知り合ったハルピンおばさんもやって来た。紅茶を飲みながら、日・中・韓の三者会談がはじまる。3つの国での漢字の意味と使い方からはじまり、東アジア3か国が抱えている問題に及んだ。
日本語で「カンジ」、中国語で「ハンズ」、韓国語で「ハンチャ」と呼ばれる漢字については、韓国人女性に対して「自国語(つまりは韓国語)を理解するには、漢字の勉強が不可欠だ」と力説したが、あまり納得したようではなかった。「愛人」という漢字が3つの国でそれぞれ異なる意味を持つことなども話題にした。
日・中・韓が抱える問題にはいくつかの共通項がある。たとえば、少子化、過度な受験勉強、女性の社会的地位など。こうした共通の問題を抱えているにもかかわらず、3か国の関係がぎくしゃくしているのは残念だとの感想を述べておいた。「中国は世界でナンバーワンになろうとしている」という私に対し、ハルピンおばさんは「そんなことはない」と否定していた。
小一時間は話しただろうか。この三者会談は今回の旅行での忘れがたい経験となった。
この日も夕食はスーパーで購入したイワシの缶詰とビスケットで済ました。明日はバスでウランバートルへ帰る日だ。チケットはGaya's Guesthouseのオーナー夫人が予約してくれていた。ハルピンおばさんと中国人の青年も同じバスでウランバートルへ向かう。
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