12月25日。
まんまとやられた。くやしい。なさけない。しゃくだ。みじめだ。腹がたつ。そしてなによりもはずかしい。屈辱の一日。
のこのことピラミッド見物に出かけたのはいいが、手の込んだ詐欺にコロッと引っかかってしまったのだ。事の顛末は次のとおり。
この日、夜行列車で早朝にカイロのラムセス駅に着き、タフリール広場近くの宿「さくら」にチェックインした。この宿のことは後日ふれる。
10時過ぎに宿を出て、先週遠くから見たピラミッドをもっと近くからじっくり観察しようと、ギザ駅に向かった。
ことはギザ駅を降りたところから始まる。陸橋を渡ろうとしたとき、子供連れの若い男が話しかけてきた。彼らもピラミッドを見に行くところだという。男によると、ピラミッドの入口には2種類あって、ひとつは外国人観光客用、もうひとつはエジプト人用だとのこと。
「外国人観光客用の入口では法外な料金をふっかけられるが、あなたはどっちへ行くか?」
「外国人でもエジプト人用の入口から入れるのか?」
「入れる。問題ない。」
こうしたやりとりのあと、男と同じマイクロバスに乗る。男が連れているのは、10歳くらいのおとなしいそうな色白の男の子。アレキサンドリアに住んでいる姉の子ということだった。「私はピラミッドに3回行ったことがあるが、この子ははじめてだ。学校でピラミッドのことを学習するので、一度見せてやりたい。」
バスを降りて、道を渡るとき、男は私に子供と手をつないでくれと言う。子供は私と男の両方に手をつながれて道を渡る。あとから考えると、これも親近感を増すための小技だった。
ピラミッドが近くに見えるところまで来て、小さな部屋に入る。中年の男がひとりいる。なんとなくこの入口の管理者みないな雰囲気だ。男は「馬とラクダとどちらがいい」と聞いてくる。「馬」と答えてしまう。動物に乗ってピラミッドを巡るつもりなどまったくなく、ただピラミッドを近くから見ればいいと思っていたにもかかわらず。値段を尋ねると、「コースによって異なる」としか答えない。
馬に乗ってしまった。子供も別の馬に乗っている。あらためて値段を聞くと、750ポンド(4500円ほど)とのこと。明らかに高い。だが払ってしまった。さらに、750ポンドは3つのピラミッドだけで、9つのピラミッドをすべて回るのは950ポンド(5700円ほど)という。3つのピラミッドだけでよかったのだが、子供が9つすべてを見たいと言っているとのことでさらに200ポンドを追加することに。ポンドをあまり持っていなかったので、ドルで支払った。200ポンドだからせいぜい10ドルだが、男は40ドルを要求する。レートを考えることもなく40ドル払ってしまった。750ポンド+40ドルで総額9000円ほど。異常な金額だ。
馬に乗ったガイドが案内する。私、子供、ガイドが乗る3匹の馬が一歩を踏み出したとき、やっと欺されたことに気がついた。まるで催眠術にかけられたように欺された。鍵となるのはおとなしそうな子供の存在だった。高いと思いつつも、子供の存在が目を曇らせてしまった。加えて、前の日にルクソールからカイロに帰る途中で複数の親切なエジプト人に出会っていたことも大きい。疑うことを忘れてしまっていた。
地下鉄の駅から始まる手の込んだ詐欺だ。しかし、いくら手が込んでいたとはいえ、こうやすやすと欺されるとは。私もそれなりに経験を積んだ旅行者だ。アフリカははじめてではない。中東もヨルダン、シリア、レバノンの3カ国に足を踏み入れた。モロッコやチュニジアも知っている。その私がこうも簡単に欺されるとは。腹が立つというより恥ずかしい。長く旅していれば、多少ぼられることは避けられない。ぼられても気がついていないケースも少なくないだろう。しかし、今回のようなあからさまな詐欺、しかも高額な詐欺ははじめてだ。
「エジプト人用の入口」なるところまで連れて行かれたのは仕方ない。子供を連れた男の話をはじめから疑ってかかるのは困難だ。お金、お金とうるさいエジプトでも、何回も無償の親切に遭遇していた。だから当初男を信用してしまったのは、いわば不可抗力だ。だが、馬に乗る前に値段をちゃんと確かめなかったこと、そもそも馬に乗ってしまったこと、金額を提示されたときに断らなかったこと(お金を持っていないと言えば済むことだ)、これらは言い訳不可能なミスだ。ボーとしてしまい、思考がどこかへ飛んでしまっていた。
ガイド、私、子供の3人で1時間余りピラミッドを回る。子供もピラミッドを見るのははじめてということになっているから、本来なら子供にも説明すべきところだが、ガイドは私だけを相手にすべて英語で説明する。ガイドの説明は簡単だ。おそらくあまり知識もないのだろう。私がピラミッドをつまんでいるかのような、あるいは大きな岩を持ち上げているかのような、いわいるトリック写真を撮ってくれるが、私は完全にしらけていた。ガイドは最後にチップを求めてくる。当然これは無視した。
この顛末の鍵となった子供のことを考えてみる。先に書いたように、色が白く、おとなしそうな子で、服装もきちんとしている。「おとなしそう」というより、おとなしすぎた。地下鉄の駅からピラミッドへ向かう間、馬に乗ってピラミッドを見て回る間、ほとんど何もしゃべらない。おそらく自分がやろうとしていること、やっていることを意識しての無口だったのだろう。私を誘った若い男の甥というふれこみだったが、これが本当かどうかはわからない。2人はあまり似ていなかったから、血縁関係ではない可能性が高い。こうした詐欺まがい(というより正真正銘の詐欺)に年端もいかないころから荷担していること、あるいは荷担させられていることが、この子の将来にどのような影響を及ぼすのか。気になるところではある。
憂鬱な気持ちのままカイロ市内に引き返したときには2時半になっていた。26th of July Steetからちょっと入ったところの食堂で遅めの昼食をとってから、地下鉄アタバ駅のスースを見物。さらに市内をぶらぶらしたあと、タフリール広場の近くにある宿「さくら」に戻る。この旅で、というより最近の数ある旅の中で最悪の一日はこのようにして終わった。
まんまとやられた。くやしい。なさけない。しゃくだ。みじめだ。腹がたつ。そしてなによりもはずかしい。屈辱の一日。
のこのことピラミッド見物に出かけたのはいいが、手の込んだ詐欺にコロッと引っかかってしまったのだ。事の顛末は次のとおり。
この日、夜行列車で早朝にカイロのラムセス駅に着き、タフリール広場近くの宿「さくら」にチェックインした。この宿のことは後日ふれる。
10時過ぎに宿を出て、先週遠くから見たピラミッドをもっと近くからじっくり観察しようと、ギザ駅に向かった。
ことはギザ駅を降りたところから始まる。陸橋を渡ろうとしたとき、子供連れの若い男が話しかけてきた。彼らもピラミッドを見に行くところだという。男によると、ピラミッドの入口には2種類あって、ひとつは外国人観光客用、もうひとつはエジプト人用だとのこと。
「外国人観光客用の入口では法外な料金をふっかけられるが、あなたはどっちへ行くか?」
「外国人でもエジプト人用の入口から入れるのか?」
「入れる。問題ない。」
こうしたやりとりのあと、男と同じマイクロバスに乗る。男が連れているのは、10歳くらいのおとなしいそうな色白の男の子。アレキサンドリアに住んでいる姉の子ということだった。「私はピラミッドに3回行ったことがあるが、この子ははじめてだ。学校でピラミッドのことを学習するので、一度見せてやりたい。」
バスを降りて、道を渡るとき、男は私に子供と手をつないでくれと言う。子供は私と男の両方に手をつながれて道を渡る。あとから考えると、これも親近感を増すための小技だった。
ピラミッドが近くに見えるところまで来て、小さな部屋に入る。中年の男がひとりいる。なんとなくこの入口の管理者みないな雰囲気だ。男は「馬とラクダとどちらがいい」と聞いてくる。「馬」と答えてしまう。動物に乗ってピラミッドを巡るつもりなどまったくなく、ただピラミッドを近くから見ればいいと思っていたにもかかわらず。値段を尋ねると、「コースによって異なる」としか答えない。
馬に乗ってしまった。子供も別の馬に乗っている。あらためて値段を聞くと、750ポンド(4500円ほど)とのこと。明らかに高い。だが払ってしまった。さらに、750ポンドは3つのピラミッドだけで、9つのピラミッドをすべて回るのは950ポンド(5700円ほど)という。3つのピラミッドだけでよかったのだが、子供が9つすべてを見たいと言っているとのことでさらに200ポンドを追加することに。ポンドをあまり持っていなかったので、ドルで支払った。200ポンドだからせいぜい10ドルだが、男は40ドルを要求する。レートを考えることもなく40ドル払ってしまった。750ポンド+40ドルで総額9000円ほど。異常な金額だ。
馬に乗ったガイドが案内する。私、子供、ガイドが乗る3匹の馬が一歩を踏み出したとき、やっと欺されたことに気がついた。まるで催眠術にかけられたように欺された。鍵となるのはおとなしそうな子供の存在だった。高いと思いつつも、子供の存在が目を曇らせてしまった。加えて、前の日にルクソールからカイロに帰る途中で複数の親切なエジプト人に出会っていたことも大きい。疑うことを忘れてしまっていた。
地下鉄の駅から始まる手の込んだ詐欺だ。しかし、いくら手が込んでいたとはいえ、こうやすやすと欺されるとは。私もそれなりに経験を積んだ旅行者だ。アフリカははじめてではない。中東もヨルダン、シリア、レバノンの3カ国に足を踏み入れた。モロッコやチュニジアも知っている。その私がこうも簡単に欺されるとは。腹が立つというより恥ずかしい。長く旅していれば、多少ぼられることは避けられない。ぼられても気がついていないケースも少なくないだろう。しかし、今回のようなあからさまな詐欺、しかも高額な詐欺ははじめてだ。
「エジプト人用の入口」なるところまで連れて行かれたのは仕方ない。子供を連れた男の話をはじめから疑ってかかるのは困難だ。お金、お金とうるさいエジプトでも、何回も無償の親切に遭遇していた。だから当初男を信用してしまったのは、いわば不可抗力だ。だが、馬に乗る前に値段をちゃんと確かめなかったこと、そもそも馬に乗ってしまったこと、金額を提示されたときに断らなかったこと(お金を持っていないと言えば済むことだ)、これらは言い訳不可能なミスだ。ボーとしてしまい、思考がどこかへ飛んでしまっていた。
ガイド、私、子供の3人で1時間余りピラミッドを回る。子供もピラミッドを見るのははじめてということになっているから、本来なら子供にも説明すべきところだが、ガイドは私だけを相手にすべて英語で説明する。ガイドの説明は簡単だ。おそらくあまり知識もないのだろう。私がピラミッドをつまんでいるかのような、あるいは大きな岩を持ち上げているかのような、いわいるトリック写真を撮ってくれるが、私は完全にしらけていた。ガイドは最後にチップを求めてくる。当然これは無視した。
この顛末の鍵となった子供のことを考えてみる。先に書いたように、色が白く、おとなしそうな子で、服装もきちんとしている。「おとなしそう」というより、おとなしすぎた。地下鉄の駅からピラミッドへ向かう間、馬に乗ってピラミッドを見て回る間、ほとんど何もしゃべらない。おそらく自分がやろうとしていること、やっていることを意識しての無口だったのだろう。私を誘った若い男の甥というふれこみだったが、これが本当かどうかはわからない。2人はあまり似ていなかったから、血縁関係ではない可能性が高い。こうした詐欺まがい(というより正真正銘の詐欺)に年端もいかないころから荷担していること、あるいは荷担させられていることが、この子の将来にどのような影響を及ぼすのか。気になるところではある。
ピラミッド
憂鬱な気持ちのままカイロ市内に引き返したときには2時半になっていた。26th of July Steetからちょっと入ったところの食堂で遅めの昼食をとってから、地下鉄アタバ駅のスースを見物。さらに市内をぶらぶらしたあと、タフリール広場の近くにある宿「さくら」に戻る。この旅で、というより最近の数ある旅の中で最悪の一日はこのようにして終わった。
遅めの昼食
アタバ広場のスーク
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