イスラエルは気になる国ではあった。イスラエルそのものにも関心があったが、もっと行きたいのはイスラエルが占領しているパレスチナだった。
しかしイスラエル行きを躊躇させる事情が私にはあった。パスポートにアフガニスタンとスーダンのビザが貼付されていることだ。ロシアやエジプトのビザも貼付されている。アラブやイランのスタンプが押されているパスポートでイスラエルに入国しようとしたときのホラーストーリーはいろいろ聞いていた。2010年に一緒にヨルダンのペトラを見て回ったオランダ人男性は、後日のメールで「シリアのスタンプがあったためイスラエル入国時に4時間質問攻めにあった」と知らせてきた。あるオーストラリア人男性からは「イスラエルの入国審査でひどく不愉快な思いをした」と聞いたこともある。
入国できないことはないだろうが、不愉快な体験は避けたい。そんな事情から、イスラエルへの旅を具体的に計画することはなかった。
そんなときたまたまネット上でイスラエルのGalilee International Management InstituteがIsrael – Palestine Conflict: Understanding Both Sides (Japananese) という研修ツアーを企画していることを知った。対象は学生だが、「一般参加者も大歓迎」とある。こうしたプログラムに参加するならイスラエル入国も容易ではなかろうか。多少の関心はありながらもまともに勉強してこなかったイスラエル・パレスチナ問題をちゃんととらえなおすいい機会にもなる。8月3日から11日までの日程も都合がいい。参加者は日本人だが、講義やツアーは英語で行われる。
Galilee Instituteでインターンとして働いている日本人男性のO氏とメールで連絡をとり、申し込み手続きを済ませてから、銀行経由で代金を送金した。6月26日のことだった。
現地集合、現地解散の今回のプログラムには最終的に私を含めて日本人16人とスロバキア人女性1人が参加することが判明した。「一般人」は私のみ。あとはすべて学生ないし準学生だ。一瞬キャンセルを考えたが、もう遅い。
7月14日に東京で事前学習会が開かれるということなので、これにも参加することにした。
この事前学習会に向け、そして本番のイスラエルでの研修に備え、とにもかくにもイスラエル・パレスチナ紛争について最低限の知識を仕込んでおく必要がある。
まず講談社現代新書の「アラブとイスラエル」(高橋和夫著)を読んで、紛争のおおよその流れをつかんだ。続いて、O氏がグーグルドライブにアップしてくれたThe Palestine Israel Conflict - A Basic Introduction(Gregory Harms他著)に目を通した。これは200ページ余りの入門書であり、"present the history of the conflict in a balanced and actual light"を目的としていた。
これらの著作を読む中で一番ひっかかったのはイスラエル建国のプロセスである。1947年の国連決議181では人口にして33%のユダヤ人が委任統治領の56%を占めることになっている。しかも1948年にはイスラエルとされた地域から70万人余のアラブ人が流出し、難民となる(ナクバ)。この問題は今もRight of returnという形で残っている。
いったん心を真っ白にして双方のnarrativeに虚心に耳を傾けようとしていた私だが、イスラエル建国を巡るこうした状況を見ると、どうしてもethnic cleansing(民族浄化)という言葉が思い浮かぶ。ジェノサイドという表現を使う人もいるが、アラブ人を絶滅させるという意図がユダヤ人の側にあったとは考えられないから、この表現はあたらないだろう。だが、アラブ人を追い出す、つまり浄化するという意図についてはどうだろうか。
このときちょうどThe Ethnic Cleansing of Palestineというタイトルの本がイスラエルの歴史学者によって書かれていることを知った。Ilan Pappéがその人。現在イスラエルからself exiledの状態であり、イギリスのUniversity of Exeterの教授となっている。
このIlan PappéがBBCのHardtalkという番組でインタビューされ、その動画がYoutubeにアップされていた。インタビューアーはBBCの記者Stephen Sackur。いつとられた番組かはわからないが、 Youtubeにアップされた日付は2014年6月30日。非常に興味深い内容だった。
Ilan Pappéに主張には説得力があるが、Sackurの反論や質問ももっともだ。Sackurは中東の専門家ではないから、彼のPappéへの質問や反論のかなりの部分がイスラエルの歴史学者Benny Morrisに依存している。幸いBenny Morrisの著作(One State, Two State)もOさんがグーグルドライブにアップしていた。次はこの本を読もう。
この段階で7月14日の事前学習会の日が来た。JICAの地球ひろばで行われた学習会には今回のプログラムに参加する6人のほか、イスラエルに関係する学生など5、6人が出席した。
若い学生たちのなかでただ1人、飛び抜けて年齢の高い私が混ざることでどうなるか。排斥されるとまではいかなくても徹底的に無視されるのではとの危惧もあったが、暖かく迎えられたようで(勝手にそう思っているだけかもしれないが)、一安心。
出発までの残りの2週間でBenny Morrisの"One State, Two State"を読んだ。MorrisはTwo stateに向けての交渉の挫折をすべてパレスチナ側のせいにしているが、これはあまりにもone-sidedであるように思った。イスラエルの入植地の拡大、ガザへのdisproportionalな攻撃にはいっさい触れていないからだ。
one-sidedはIlan Pappéの側にも見られる。アラブ人によるイスラエルへのatrocities、PA(Palestinian Authority)の非民主的な体質、ハマスのイスラム原理主義が内包する政教一体の危うさがほとんど触れられていない。
こうした状態で8月1日の出発日を迎えた。勉強不足もいいところだが、今さらどうしようもない。
テルアビブ(ベン・グリオン空港)までは香港経由のキャセイパシフィック航空の便で飛ぶことにしていた。8月1日18:00に関空を飛び立つ。テルアビブ着は翌日2日の午前7時55分。空港にはGalilee Instituteから迎えが来ているはずだ。しかし、イスラエルの入国審査をスムーズに通り抜けられるかどうか。不安は大きい。
しかしイスラエル行きを躊躇させる事情が私にはあった。パスポートにアフガニスタンとスーダンのビザが貼付されていることだ。ロシアやエジプトのビザも貼付されている。アラブやイランのスタンプが押されているパスポートでイスラエルに入国しようとしたときのホラーストーリーはいろいろ聞いていた。2010年に一緒にヨルダンのペトラを見て回ったオランダ人男性は、後日のメールで「シリアのスタンプがあったためイスラエル入国時に4時間質問攻めにあった」と知らせてきた。あるオーストラリア人男性からは「イスラエルの入国審査でひどく不愉快な思いをした」と聞いたこともある。
入国できないことはないだろうが、不愉快な体験は避けたい。そんな事情から、イスラエルへの旅を具体的に計画することはなかった。
そんなときたまたまネット上でイスラエルのGalilee International Management InstituteがIsrael – Palestine Conflict: Understanding Both Sides (Japananese) という研修ツアーを企画していることを知った。対象は学生だが、「一般参加者も大歓迎」とある。こうしたプログラムに参加するならイスラエル入国も容易ではなかろうか。多少の関心はありながらもまともに勉強してこなかったイスラエル・パレスチナ問題をちゃんととらえなおすいい機会にもなる。8月3日から11日までの日程も都合がいい。参加者は日本人だが、講義やツアーは英語で行われる。
Galilee Instituteでインターンとして働いている日本人男性のO氏とメールで連絡をとり、申し込み手続きを済ませてから、銀行経由で代金を送金した。6月26日のことだった。
現地集合、現地解散の今回のプログラムには最終的に私を含めて日本人16人とスロバキア人女性1人が参加することが判明した。「一般人」は私のみ。あとはすべて学生ないし準学生だ。一瞬キャンセルを考えたが、もう遅い。
7月14日に東京で事前学習会が開かれるということなので、これにも参加することにした。
この事前学習会に向け、そして本番のイスラエルでの研修に備え、とにもかくにもイスラエル・パレスチナ紛争について最低限の知識を仕込んでおく必要がある。
まず講談社現代新書の「アラブとイスラエル」(高橋和夫著)を読んで、紛争のおおよその流れをつかんだ。続いて、O氏がグーグルドライブにアップしてくれたThe Palestine Israel Conflict - A Basic Introduction(Gregory Harms他著)に目を通した。これは200ページ余りの入門書であり、"present the history of the conflict in a balanced and actual light"を目的としていた。
これらの著作を読む中で一番ひっかかったのはイスラエル建国のプロセスである。1947年の国連決議181では人口にして33%のユダヤ人が委任統治領の56%を占めることになっている。しかも1948年にはイスラエルとされた地域から70万人余のアラブ人が流出し、難民となる(ナクバ)。この問題は今もRight of returnという形で残っている。
いったん心を真っ白にして双方のnarrativeに虚心に耳を傾けようとしていた私だが、イスラエル建国を巡るこうした状況を見ると、どうしてもethnic cleansing(民族浄化)という言葉が思い浮かぶ。ジェノサイドという表現を使う人もいるが、アラブ人を絶滅させるという意図がユダヤ人の側にあったとは考えられないから、この表現はあたらないだろう。だが、アラブ人を追い出す、つまり浄化するという意図についてはどうだろうか。
このときちょうどThe Ethnic Cleansing of Palestineというタイトルの本がイスラエルの歴史学者によって書かれていることを知った。Ilan Pappéがその人。現在イスラエルからself exiledの状態であり、イギリスのUniversity of Exeterの教授となっている。
このIlan PappéがBBCのHardtalkという番組でインタビューされ、その動画がYoutubeにアップされていた。インタビューアーはBBCの記者Stephen Sackur。いつとられた番組かはわからないが、 Youtubeにアップされた日付は2014年6月30日。非常に興味深い内容だった。
Ilan Pappéに主張には説得力があるが、Sackurの反論や質問ももっともだ。Sackurは中東の専門家ではないから、彼のPappéへの質問や反論のかなりの部分がイスラエルの歴史学者Benny Morrisに依存している。幸いBenny Morrisの著作(One State, Two State)もOさんがグーグルドライブにアップしていた。次はこの本を読もう。
この段階で7月14日の事前学習会の日が来た。JICAの地球ひろばで行われた学習会には今回のプログラムに参加する6人のほか、イスラエルに関係する学生など5、6人が出席した。
若い学生たちのなかでただ1人、飛び抜けて年齢の高い私が混ざることでどうなるか。排斥されるとまではいかなくても徹底的に無視されるのではとの危惧もあったが、暖かく迎えられたようで(勝手にそう思っているだけかもしれないが)、一安心。
出発までの残りの2週間でBenny Morrisの"One State, Two State"を読んだ。MorrisはTwo stateに向けての交渉の挫折をすべてパレスチナ側のせいにしているが、これはあまりにもone-sidedであるように思った。イスラエルの入植地の拡大、ガザへのdisproportionalな攻撃にはいっさい触れていないからだ。
one-sidedはIlan Pappéの側にも見られる。アラブ人によるイスラエルへのatrocities、PA(Palestinian Authority)の非民主的な体質、ハマスのイスラム原理主義が内包する政教一体の危うさがほとんど触れられていない。
こうした状態で8月1日の出発日を迎えた。勉強不足もいいところだが、今さらどうしようもない。
テルアビブ(ベン・グリオン空港)までは香港経由のキャセイパシフィック航空の便で飛ぶことにしていた。8月1日18:00に関空を飛び立つ。テルアビブ着は翌日2日の午前7時55分。空港にはGalilee Instituteから迎えが来ているはずだ。しかし、イスラエルの入国審査をスムーズに通り抜けられるかどうか。不安は大きい。
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