タクシーの座席が埋まるまでしばらく待つ。待っている間に、道端で売っていた魚の唐揚げを朝食代わりに食べる。ハルゲイサまでの料金は行きと同じで6ドル。席が埋まって出発したタクシーはなぜか警察署に寄り道し、私は警察署の中に案内される。私に応対した平服の職員は友好的であり、別に不安はなかったが、なぜ警察署に立ち寄る必要があるのか不可解だった。警察署長とおぼしき人の部屋まで案内されたものの、挨拶しただけだった。推測するに、タクシーの運転手は、外国人がボディガードなしでソマリランド国内を移動するのに必要なletter of permissionを取得させるために警察署に案内したのではないかと思う。しかし私はハルゲイサですでにletterを手に入れていた。挨拶だけで終わったのもこのためかもしれない。あるいは何か登録するようなことがあったのかもしれない。
カフェでお茶を飲んでいてもすぐに誰かが話しかけてくる。彼らが聞きたがるのは、ソマリアに比べてソマリランドがいかに安全であるかだ。「ソマリアには行かないのか」と尋ねられ、「Somalia is too dangerous to travel」と答えると、周りがドッと笑う。そんななかでも、貧しいソマリランドでは学校に行けない子供も多いと嘆いていた青年の言葉が心に残っている。
ソマリランドでは首都のハルゲイサに加えて、アデン湾に面する港町のベルベラをも訪れるつもりだった。当時、外国人がハルゲイサからベルベラへ向かうときにはAK47で武装したボディガードを雇う規則になっていた(現在ではベルベラに関する限りこの規則はなくなったと聞く)。ボディガードを付けるのだから、車も専用車になる。ベルベラに宿泊するとすれば、ボディガードの宿泊費まで出さなければならないだろう。これでは費用がかさんでしまう。しかし抜け道はある。警察でletter of permissionをもらえば、ボディガードなしで移動できるのだ。
明日はベルベラへ行く予定なので、まずはそのletter of permissionを手に入れなければならない。ホテルの近くに警察署があるが、letterは郊外の警察署本部でしか取得できない。ホテル近くの警察署で本部の所在場所などを聞いていると、運良くこれから本部へ行くという車があり、同乗させてもらうことができた。タクシーで行けば5ドルかかるうえ、外国人が本部に入るのは容易でないと聞いていたので、これはありがたかった。letterの作成には小一時間かかった。
Nickはロンドンの高級住宅街であるノッティングヒルに住む。両親ともに俳優で、母親は引退後もBBCのJust a Minuteという番組などに出演していたらしい。彼は10月10日に羊角島ホテルのロビーでBBCのインタビューを受けていた。インタビューはかなり挑発的で、「ノッティングヒルの金持ちが北朝鮮に来て何をしたいのか」と聞かれたり、「北朝鮮観光は血の上に築かれた観光だ(tourism based on blood)」と言われたりしたらしい。Nickのことだから、のらりくらりと答えていたもよう。